ミッドナイト
右から爪切りの音
左から子供の声
前から車と数分おきに電車の音
湿度が下がり、最高気温が30度だった今日は
昨年旅行で訪れたドイツの気候にそっくりだった。
ドイツはカラッとしていて、人の感じも似ていて、
居心地が良かったな。
夜は向こうほど冷え込まないけれど、
どこか別の場所へ来ているような
日本に似つかわしくない肌触りが
あの旅を恋しくさせる。
陽が完全に落ちて、
ベランダに腰掛けながらぼんやりしていると
音や光の色がはっきり感じられた。
こんなふうに数十メートル先にしかない光を
真正面に捉えながら、
夜中に話し込んだことをいつもより鮮明に思い出す。
不規則に流れる車のネオンから目が離せなかった。
顔を覆う左手の玉ねぎのにおいで
自分のいる場所を思い知らされる。
月は段々と右に傾き、左下には強く光る星があった。
雲に隠れては顔を出しているのに、
目の前の色は変わらない。
月明かりを頼りに歩いたことは
これまでにあっただろうか。
目の前を次から次へと流れる車を見ていると、
今日の昼下がりに観た『ビフォア・ミッドナイト』での
台詞がしつこいほどに再生された。
過ぎ去る人生に身をまかせて